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【人類は宇宙へ飛び出そう まずは小惑星から】第4章『小惑星開拓計画』

初出:2008年05月01日 元々のブログ・コンテンツへのリンク
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第4章『小惑星開拓計画』
さて、いよいよ、どうやって小惑星に人類が生存圏を広げるかと言う話をする訳だが、たぶん2つの事で皆さんが想像する「小惑星開拓プラン」のイメージに対して期待を裏切ることになると思う。まあ、「期待を裏切る事」自体が「パラダイムシフト」を意味しているのだと理解していただきたい。

期待を裏切る一つ目は「小惑星の開拓は地球を中心に行われる訳ではない事」で、二つ目は「開拓用の宇宙船はハイテクではない事」だ。

小惑星を開拓し、その資源を有効に使うとすれば、地球でハイテクの豪華な宇宙船を打ち上げ、その船で小惑星の資源を掘り、持ち帰ることを想像するだろう。

もし、地球から宇宙船を打上ると、小惑星に着くのは、打ち上げ質量の数パーセントにも満たない。宇宙ステーションのような地球周回軌道上で、宇宙船を組み立てたとしても、小惑星に着くのは20〜40パーセント程度だろう。軌道上で組立る方が効率が良さそうに聞こえるが、組立てに必要な物資を地上から打上るのであれば、元々の打上げ時での質量からの効率に変化はない。

小惑星に到着し、資源を採取して地球に送り返すと、地球に送ることのできる量は、小惑星に到着した時の質量よりも少ない。もし、小惑星で燃料を補給できれば、改善されるが、それでも到着時の質量よりも多のなることは無いだろう。

小惑星から地球へ持って帰る物資の量は、地球から打上げ時の質量よりも、ずっと少ない。
もちろん、ロケットを改良し、高効率の燃料やエンジンを使ったり、大型化したり、イオンエンジン等を使ったり、色々と改善の余地はあるだろうし、改良毎に効率は良くなるかも知れない。だが、どんなに改良しても、小惑星から持って帰る物資の量が打上げ時の質量より多くなることは無いだろう。

どんなに効率が幾ら良くなっても、打上げ時の質量を越えなければ同じである。効率が0.01パーセントであろうと、10パーセントであろうと、極端に言えば、99.99パーセントであろうと、全て同じ結論だ。

最初の打上げから物資が減り続けるなら、いずれは先細りで行き詰まりだ。発展性は全く無い。

小惑星開拓を大航海時代の帆船と同じアナロジーで語れないのは、ここにある。帆船なら本国で建造し、風を受けて何度も航海し、物資を輸送すれば、いずれ、その船以上の物資を、もたらすことができる。
ロケットの場合、地球から打上げて小惑星に送る時に大量の燃料が必要なため、最初の投資以上のリターンが得られないのだ。「ロケットを再利用型にすれば」という意見が聞こえてきそうだが、それも駄目だ。仮に、ロケット自体が何度も使えても、燃料が大量に必要なので、結局は初期投資を越えることは無い。

根本から、考え方を改める必要がある。「地球で組立てて、地球から打上げ、地球に帰る」と言う地球中心的な開拓プラン自体が間違っているのだ。

要は、地球に帰らなければ良い。
小惑星開拓用宇宙船は、小惑星帯で建造され、航行し、小惑星から小惑星へ移り住み、新たな小惑星で、次の世代の小惑星開拓用宇宙船を建造すれば良い。

つまり、「自己増殖型宇宙船」である。

「この話、何処かで聞いたことがある」と思った人も居るだろう。そう、これはノイマン・マシンに、そっくりだ。
コンピュータの始祖とか言われて居るフォン・ノイマンが、火星などの惑星を開拓するなら、単純に開拓用の無人ロボットを送り込むより、自己複製・増殖型のロボットを送り込み、惑星の資源を使って、ロボットが増殖した後、開拓作業を行った方が、結局効率的だと提唱したのが、ノイマン・マシンだ。

私の言う「自己増殖型宇宙船」は、ノイマン・マシンの一つのバリエーションだ。ただ、私は無人の自動機械でノイマン・マシンが作れると思うほど楽観視していない。予想もできないことが起こるかもしれない宇宙で、自分自身を複製するためには、人間の手助けは不可欠であり、従って「自己増殖型宇宙船」は乗組員の居る有人宇宙船だ。

さて、「自己増殖型宇宙船」が、どのような仕組み・構成になっているか、皆さんも知りたいと思うかもしれない。が、それは次回の楽しみに取っておいて、今回は、「自己増殖型宇宙船」が、どのように小惑星全に広がり、人類の生存圏を広げて行くかについて説明しよう。

小惑星にも色々な大きさがあるが、最大の小惑星でも表面での重力は地球の 1/100 程度であり、もっと小さな小惑星なら、重力は更に小さい。
また、自己増殖型宇宙船の軌道マヌーバー能力が、ΔVが 200m/s もあれば、太陽からの軌道半径が6億キロ程度の小惑星帯の中では、1500万キロも軌道半径をは変化させることができる。
小惑星から小惑星に移るまで、ホーマン軌道を取るなら、8年の公転周期の半分である4年が必要だ。新しい小惑星に到着後20年で、次の世代の宇宙船を製造できるなら、24年で2倍になる。このままのペースで増え続けると 240年で1024倍、480年後には 100万倍となり、小惑星の総数を越える。
つまり、小惑星帯全域に宇宙船が広がったことになる。もちろん、全ての小惑星に宇宙船が広がった事が、小惑星帯に人類が広がった事にはならないかもしれないが、それは時間だけの問題になりそうだ。

小惑星全体に行き渡るのに 480 年と言うのは、時間がかかり過ぎると思われるだろうか?
それとも意外と短いと思われるだろうか?

いずれにしろ、480年は、ざっと計算した概算であり、最悪値と考えて良いだろう。実際は、ホーマン軌道よりも時間のかからない軌道を選ぶことも可能だし、小惑星から小惑星への航海一回毎に一隻作るよりも二隻も作る方が効率が良いかもしれない。

何万もある小惑星を、どんな順番で辿って行き、更に一カ所で何隻作るのが最適なのか? それは簡単には分からない。コンピュータでシミュレーションしてみれば、どう言ったやり方が良いのか分るかもしれない。

現状判って居るだけの小惑星の軌道データをコンピュータにインプットしておき、開拓用宇宙船の持つΔV能力をパラメータとして設定し、さらに次の世代の宇宙船を製造するのに必要な期間を想定すれば、小惑星帯全体に広がる最適な経路と期間が計算できる。

最適な経路を求めると簡単に書いたが、実は、そんなに簡単ではない。「巡回セールスマン問題」などを考えた人なら判ると思うが、地球上のように街と街の位置関係が変化しない場合でも、街の数が増えるに従って、経路の組合せは指数関数的に増える。小惑星の場合、太陽の回りを公転して居るので、時々刻々位置関係が変化する。だから、最適解を求めるのは、より難しくなる。数万を越える小惑星を最も短い期間で開拓する経路の厳密な最適解を求めることは不可能で、現実的には、「まあ、これなら妥協できるなあ」位の「準最適解」を求めるしかない。「準最適解」を求めるなら、コンピューターシミュレーションが役に立つ。

航海用の軌道計算のシミュレーションプログラムを作ることは、そんなには難しくない。何処かの天文台で公開されて居るであろう小惑星の軌道データを入手する。現時点では全ての小惑星の軌道データが正確に判って居る訳ではないから、足りない部分はランダムに生成しても良いかも知れない。

これらの小惑星の内の2つを選び出し、ランベルト法などを用いて、それらの小惑星間を航行するのに必要なΔVと航行期間を求める。
こうやって求めて経路を組合せて、「準最適解」を見つければ良い。

シミュレーションプログラムが、そんなに簡単に作れるのなら、さっさと自分で作れば良い。そう言われそうだ。だが、軌道計算のシミュレーションのプログラミング自体は2〜3週間でできるだろうが、その後がとてつもなく時間がかかるのだ。

実際、私は「準最適経路」を求めるコンピューターシミュレーションを作ろうとしていた。そのために、わざわざデュアルコアのパソコンを購入したほどだ。
だが、プログラムの準備をして居るうちに、満足できる解が得られるには2〜3週間どころか、半年・1年以上の時間がかかる事に気が付いた。それは「経路の組合せ」が余にも複雑だからだ。

囲碁や将棋を思い浮かべて欲しい。
碁盤や将棋盤の升目の数や石・駒の数は、小惑星に比べて遥かに少ない。だが、その組合せは事実上無数にあり、両方とも千年を越える歴史を持ちながら、完全解を求めるには、その糸口をすら、見つかって居ない。
では、囲碁や将棋が千年以上の歴史で進歩しなかったかと言うと、そうではない。勝つための方法とか戦略が作られた。つまり「定石」と言うやつである。

先に述べた2〜3週間で作れる軌道計算のシミュレーションとは、囲碁や将棋で言えば、石や駒が何処におけるか、どう動かせるかを判定する言わば碁盤や将棋盤である。

だが、「定石」を見つけるのは、そんな短期間で済むとは思えない。どんなに短くても数カ月から半年、下手をすれば、数年以上かかってしまうかも知れない。
『人類は宇宙へ飛び出そう まずは小惑星から』シリーズの第一回目でも言ったように、このように長期間時間がかかると予想される解析は、まだ行っていない。

シミュレーションプログラムを作り、定石を探す解析を行っていないのは、単に時間がかかり、これの完了を待っていると「小惑星ネタ」のコンテンツが何時迄経ってもアップできないことが理由であり、決してシミュレーションプログラム作りや解析作業が面倒だからではない。
逆に、私の性格から言って、このようなプログラム作りや解析を一度始めてしまうと、面白くて没頭してしまい、それこそ寝食惜しんで時間の経つのも忘れかねない。

既に述べたように、小惑星の位置関係は、時々刻々と変り続ける。どのタイミングで小惑星から小惑星への航海を始めるのか、どう言ったアルゴリズムを用いることで、効果的に拡大していくか・・と言うだけでも面白い。その上、未知の小惑星が発見された時に効果的に対応できるアルゴリズムも面白い。

前回のコンテンツでは、あたかも太陽系の小惑星は全て同じような成分比率でできているように書いたが、実際は、いろいろな種類の小惑星がある。太陽に近い小惑星が程、水分が少なく、遠いほど水分が多いのは原則的には正しいのだが、長い年月の間に木星などの巨大惑星の引力で混ぜられているため、太陽に近いところに水分の多い小惑星が来たり、遠いところに乾いた小惑星が行ったりする場合もある。

また、遠い昔、より大きな惑星に形成される途中まで成長した小惑星もある。このような小惑星は、一度ぶつかり合って、高温で溶け、地球の核のように中心に重い金属などが集まり、周辺部に軽い元素が取り残される。形成途中の惑星が、再び大きな小惑星などと衝突して、バラバラになった時、中心部分だった場所は、金属が多い小惑星になる。

このように小惑星の種類が多いことを考慮すると、一度に次世代の宇宙船を造るよりも、金属の多い小惑星で船体を造り、水の多い小惑星で燃料や食料を載せるなど、分割した方が良いかもしれない。

全く逆に、幾つかの小惑星に造船所を集中し、宇宙船を大量生産した方が効率的かも知れない。

緊急事態には、どう対処するか?
ある程度の応急治療は、各宇宙船でできるようにするのは当然だが、大きな手術のできる大病院を小惑星帯に、どう配置し、どのように搬送するのが効果的か?

課題はいっぱいある。これらは一朝一夕で答えが得られるほど簡単な問題では無いし、検討するにはコンピュータの助け無しには考えられない。

それこそ、シムシティならぬシムアステロイドでもなりそうな位、楽しそうだ。

「楽しそう」だからこそ、今回は手を付けなかった。
「小惑星全体に広がるのは最大で480年後」と言う概算にとどめた。この「480年後」とは、囲碁の勝敗が決まるのは、升目の交点の数である「361」にマージンをプラスして「おおよそ400手以内だろう」と言っているのに等しい。囲碁を知っている人なら判るだろうが、普通囲碁の勝敗が決まるのは、200手強だ。

同じように、ちゃんとアルゴリズムが見つかれば、480年より大幅に短くなるだろう。それが、半分なのか3分の1なのか、はたまた、ずっと少ないかは、まだ誰も知らないが。
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