マツドサイエンティスト・研究日誌 保存版
MAKERS 読了

初出:2013年09月13日 元々のブログ・コンテンツへのリンク
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クリス・アンダーソン著 MAKERS 〜21世紀の産業革命が始まる〜 を読んだ。私が「コミケ報告 〜その3」の中で言いたかった「個人によるモノ作り」と同じような事を分厚い書籍にしたもの。日本語訳は昨年10月に出版されている。

実は、コミケ開催以前に、今回の私のコミケ参加の目的は「コミケにおける個人によるモノ作り」の実情調査だと周囲の人には話しており、それを聞いた一人が「野田さんと同じような考えをまとめた本があるので、是非読むべきだ」と指摘を受けていた。その人から話を聞く分には、確かに私が考えているのと同じような内容の本だと思えた。しかし、コミケにおける実情調査の前に、その本を読むと先入観を持ってしまう可能性があったので、コミケが終り、その結果を「コミケ報告 〜その3」にまとめるまで本を読むのをひかえていた。従って、「コミケ報告 〜その3」の内容は、MAKERSを読む以前の 完全に私のオリジナルの考えである。

さて、MAKERSを読むと、「コミケ報告 その3」で指摘していた「ミッシングリンク」つまり「個人によるモノ作りが日本全体の技術向上に繋がることは疑い無いが、大金を儲ける事も、雇用を生み日本経済を支えるところまでは私には未だ方法が判らない」と言う部分に関して、かなり楽観的な事が書いてあった。しかし、MAKERSは、アメリカ中心の考え方であり、欧米が「個人開発」と言う頭脳中心の発展をする一方、中国を始めとするアジア諸国が「生産」と言う肉体労働(?)と言う格差を利用することを暗に示しているが、アジア諸国の一角である日本の場合、この考えが通用するか甚だ疑問である。
その他、キックスタートなど、初期の資金調達に必要な仕組みなどを詳細に説明してあり、さすがに「ワイヤード」の編集長を務めるだけあって、情報収集と読みやすい文章は、私は足元にも及ばない。

しかし、その一方、私がモノ作りに必要かつ重要だと思う項目が3つ抜けていた。それは、以下の3つだ。
1) 設計
2) インテグレーション
3) 作品としての評価

著者であるクリス・アンダーソンは、この3つの項目が重要であることを見抜いていないのか、それとも「MAKERS」で書いていないだけのかは判らない。彼の生い立ち(職人である祖父の元でモノ作りを学んだ少年時代など)や その後を見ると「設計」と「インテグレーション」を知らずに居るとは思えない。が、一方、「設計」についてはバート・ルタンの実例やローカルモーターズの場合には既存の構造をそのまま使う例を出してはいるものの、「MAKERS」の記述だけでは天才や以前からのプロとしての経験によってのみしか「設計」ができない事になってしまう。
残りの「インテグレーション」と「作品としての評価」については、「MAKERS」に少なくとも私が重要だと思える事について記述は無かった。

さて、私が重要視していると言う「1) 設計」「2) インテグレーション」「3) 作品としての評価」だが、いきなり3つの言葉を並べられても、読者は困惑してしまうだろう。特に私が使う「設計」と一般の人がイメージする「設計」では異なるため、誤解される恐れがある。

一般的に「設計=デザイン」と言う言葉から、どう言った事を連想するだろうか?
「形状・装飾デザイン=スタイリングや装飾を設計・デザインする」事だろうか?
それとも「製造設計=製造に必要な図面や回路図をCADや製図機を用いて描く」事だろうか?

「設計」には、大きく分けて「機能・性能設計」と「形状・装飾デザイン」と「製造設計」の3つが在る。この3つの内、後の2つが一般的にイメージされる「設計」だ。じゃあ、「機能・性能設計」は、ほとんど認知されていない。

ちょっと極端な例で、3つの設計の違いを説明しよう。
「二輪車が存在しない」世界を想像して欲しい。自転車もオートバイも無い世界だ。自動車は全て4つ以上の車輪を持っている。
この世界で、新しい自動車を作ることになった。ネット上でチャットなどを使って、新しい自動車作りについて議論する。
この時、「格好良いデザインにしようよ。流線型にして、先端は尖らせて・・」と言うのが「形状・装飾デザイン」だ。
次に「判った。それじゃ、僕がCADで図面を描くよ。その図面をネットで業者に送ったら、すぐに製造できるような図面をね」と言うのが「製造設計」だ。

とまあ、こんな感じで進むかも知れない。
スケッチや図面と言った画像も入るかも知れないが、基本的にはネット上のテキストのやり取りで設計が進む。

しかし、誰かが「なんで車輪が4つもあるんだ? 2つにできたら良いのに」と言い出したらどうだろう?
「そんなもの倒れるに決まっているだろう。できるわけない」で終わってしまうのが想像できる。

だが、実際には2つの車輪で倒れずに走行できる。
この技術的ギャップを埋めるのが、「機能・性能設計」だ。
「MAKERS」の中では、バート・ルタンが「カナード=先尾翼機」を作ったところにあたる。「MAKERS」では例は示しても、これを新しい「個人的なモノ作り」で具体的にどう行うかの説明はない。
私は、このような「イノベーティブな機能・性能設計」の解決法を全く持っていないわけではないが、まだ試行段階だ。いずれ、もう少しまとまったら、ブログでも書きたい。

次の「インテグレーション」だが、この言葉自体初めて聞く人も多いかもしれない。「外部業者で作ったものを組み合わせて構築し、最終的に動くものを創り上げる事」だ。
実は、「インテグレーション」は、人工衛星を作る時の用語で、一般的な日本語で言うと「統合」とか「組立・整合性試験」とか、そう云うイメージのものだが、あまり適当ではないので、ここでは「インテグレーション」を使わせてもらう。
ネット経由で海外の業者に発注したモノが製造され送られてきたものが、設計通りにできていても、それらを組み合わせてちゃんと動くと思ったら大間違いだ。
多くの場合、「設計図通り」に動かない。
むしろ、全く新しいモノを作る場合、一発目から「設計図通りに作ったら、動作する」ような設計図を描ける人は、まずいない。

製造されたものを組み合わせる。この時、単体での試験を行い、想定通りの機能・性能を満足していることを確認しては、次のモノと組み合わせていく。個々の機器が単体で機能性能を満足しても組み合わせると動作しないことが極めて多い。このような場合に、それぞれの問題を、可能ならその場で解決して組み上げていき、最終的に全て組み合わせて動くようにする、これが「インテグレーション」だ。

「インテグレーション」の過程で出てくる不具合は、その場で対処療法的に対処される一方、製造の元になった設計図等に反映し、次のサイクルでの再発を防ぐ。このように一通り機能するようにしたのち、再び、設計に戻り、改良された設計で再製造・インテグレーションを繰り返す。
このようなサイクルを何回か繰り返したのち、「設計図通りに製造したら機能するモノ」ができる。私のオーディオプレーヤでも、プリント基板を起こした時点から3サイクル、その前のユニバーサル基板での試作を加えると4サイクル回している。データロガーの場合は、それぞれ、2サイクル・3サイクルだ。
「インテグレーション」の言葉は知らなくても、モノ作りをするものなら、誰もが行なっている極めて重要な工程である。

「設計」と「インテグレーション」は表裏一体のところがある。
私の技術者としての経験から言うと「インテグレーション」を先に覚え、その後「設計」を知った。これが一般的なのかは判らないが、いずれにしろ、この2つがモノ作りに必須であることは間違いない。

最後の「作品としての評価」は、少し異質だ。
「作品としての評価」は、私の「コミケ報告 その3」のブログで、「機能作品してのアート性」として強調していた部分である。要は、「私の作ったオーディオプレーヤのアート性は実際に聞いてみなければ判らない」と言うことだ。

書籍「MAKERS」の中で、個人的なモノ作りをする人が、多くの人に理解してもらうには、ネット上でのプレゼンテーションすなわち、テキストや画像、動画を使って如何にアピールするかが重要であると言う事が、直接的ではないにせよ、間接的に書いてある。しかし、これは投資家や経営者、評論家サイドから見た技術者への要求であり、技術者から見れば無理難題だ。

私のオーディオプレーヤを例にさせてもらうと、どんなに言葉で説明しても、その音の本当の伝わらない。動画にしても同じだ。私のオーディオプレーヤの音を録音して、それをYoutubeにアップしても、その動画から聞こえる音は、あなたの持っているパソコンに付いているスピーカーなりイヤホンの音であり、私のオーディオプレーヤの音ではない。

ネットでアピールするために、テキストや写真、動画にすることは、結局大なり小なり偽りが含まれる。偽りのアピールは偽りの連鎖を産んで、本質から離れていく。個人的なモノ作りをする人の中には、本質から離れた偽りのアピールに嫌気がさし、作ったものの本質を訴えたいと思っている人が少数でも確実にいる。

また、モノ作りが得意な人は、必ずしもアピール上手ではない。いやむしろアピールが苦手な人、口下手な人が多いのではないか?
一人の人間が持つ能力には限界がある。本当にモノ作りができる人よりアピールの上手い人が作ったモノの方が受け入れられやすい。
「ろくにモノ作りもできないのに、口ばかり上手い奴ばかりがなんで受けるんだ?」と思った人も多いだろう。
大企業によるモノ作りの場合、モノを作る技術者とは別にアピール上手な人を専門においていた。それが「営業」だったり「広報」だったりする。モノ作り専門の技術者は、本質的に良いものを作るのではなく、「営業」や「広報」がアピールしやすいものを優先的に作らされてきた。それに嫌気がさして「個人的なモノ作り」をしたいと思った人もいるはずだ。
にもかかわらず、「個人的なモノ作り」もまたネット上での「アピール」が優先されるとなると、本末転倒である。

コミケのように、多くの人に「実際に音を聞いてもらう」ことは貴重な機会だ。これは、オーディオプレーヤに限らず、機能するモノを作るのなら、共通して同じで、どうやっても、テキストや写真、動画で伝わらない「機能」がある。
Makeフェアーも、コミケと同じように実際に「機能」を見てもらう良い機会となり得る。しかし、「MAKERS」でのMakeフェアーの扱いが思いの外少なかったので、気になった。

また、長文になってしまった。
「イノベーティブな機能・性能設計」や「インテグレーション」「評価」については、別の機会に詳しく書きたいと思う。
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